遅まきながら、尾崎喜八『図録』を手にして、忌憚のない所感を以下に。私は🇫🇷🇨🇭両国取材時の目的に、Romain Rolland （RR）が、🇨🇭の知識人達と展開した精神的紐帯による社会的連帯の実態把握があった。それに派生した日本知識人達との交流を、1925年前後の書簡にあたっていた。★当然、尾崎とRRの往復書簡の内容は把握していた。だが、その尾崎自身が、後記するRR書簡に関する部分翻訳を、なぜ手掛けたのかという重要情報は不明のままだった。★それを尾崎栄子さんにお聞きするために、北鎌倉でお会いした。その時、尾崎さんは、RR書簡に関しては饒舌だったが、当時の尾崎喜八の行動記録については、明快さを欠いた言い方だった。そして「あなたの仰りたいことは、私にはよく解りますし、それが正解だと思います」。「あそことは色々ありましたから…」と意味深なことを言われた。★それを言えば、あそことは、江渡狄嶺の百性（ﾏﾏ）愛道場のこと。色々な知識人が出入りしていた文化ｻﾛﾝだった。当然仏語ゆかりの知識人も多かった。そうした一人に図録にも出ているが、RR宛に全文ｶﾀｶﾅの直筆書簡を送った倉田百三がいる。尾崎とRRとの関係全容とは別に、RR の評価は倉田の方が非常に高い。★だが、尾崎と江渡については、尾崎栄子さんがいいよどんだ如く、当時の評価は江渡とは合致しなかったようだ。私はその事を江渡不二さん（狄嶺長女）から聞いていた。そしてその為に栄子さん自身が辛い思いをしていたとも話されていた。★つまり非常に記しずらいことだが、尾崎の当時に、こう言っては何だが「島崎藤村的な生き方」があったことがあげられるだろう。★尾崎栄子さんに、私は一言も江渡家とはいわなかったが、あなたの言わんとすることは正しいと思いますと言われた。人生の顧みたくない私情を、語りずらい問題として避けた。それを批判する気はない。★だが、尾崎自身が書き残した、非常に綺麗な直筆のRR書簡部分抄訳は複数存在する。それは既刊書簡集の第三者訳と比べれば、非常に興味深い。その事実が、私の欧州取材の宿題として残っていた。★図録には江渡と尾崎の個人的接点はあったが、ｻﾛﾝ描写はない。RRと尾崎との交流については、幅広い人脈が集った百性愛道場文化ｻﾛﾝの実態とともに、浮き彫りにすべきだろう。