30年ほど前、墨染駅の近くにアパートに住んでいた。同じアパートに住んでいた友人が、このお店の近くに住んでいる地元方と友人となった。仮にY君としておく。Y君は二つほど年上だったが、気安くて気兼ねなく、面白いことが大好きだった。いわば典型的な伏見のにぃちゃん、という雰囲気だった。
僕もY君と親しくなった。Y君は司法書士を目指していた。お父上が司法書士で大変成功しているらしく、丘の上の白い大きなお屋敷屋敷に住んでいた。門扉をあけると家の玄関までの小径に電気がパパっとついて足元を照らしてくれた。
そのY君から「おいしいとこやで」と紹介されたのが、このお店だった。ただ貧乏学生だった私が行けるはずもなく、いつか行ってみたいなぁ、とは思っていた。
Y君は実は在日三世だった。就職で差別されることを避けるため、士業を目指しているとのことだった。お父上も同様の考えで司法書士になったとのこと。京都には在日の方が多く住んでいる。
おれな、実は外国人やねん。
え、何ゆーてるんですか。 Y君、めちゃめちゃジャパニーズやないっすか。
いやホンマよ、これ。 (外国人登録カードを見せてくれた。Yは通称で、本当の苗字はKだった)
いや、いーやっ。 ホンマですやん。 なんやアメリカ人とかゆうかとおもたら、そーゆーことですか。
きっついやろ。
きっつくはないですけど。 へぇー、こんなん持って歩いてるんですか。
せやねん。 だっるいわ。
だるいっすねー。 ほな中学とか高校は朝鮮学校やったんですか?
ううん。藤城(小)藤森(中)洛水(高)からの同志社落ちての東京法経専門学校大阪校。
めっちゃ地元密着型ですやん。
そやな。 地元は伏見。 ツレも元カノも今カノもみ~んな伏見や。(Y君はかなりモテた) 俺の地元は間違いなく伏見やわ。 自分のこと日本人とは思われへん。 けど伏見の人間やとは思てるわ。
Y君、そないなこと、なんで今になって話してくれたんです。
いや、今更おれが朝鮮人でもお前は何ともおもわんやろな、と思て。
少々モテるんと、ものごっつアホなこと除けば、ふつーの人ですもんね。
アホはええとして「ものごっつ」は余計やろ。
そですかね。あははは
あははは。
なんて会話をしたことがあった。後で知ったが、このときY君は「今カノ」に降られた直後だったらしい。なんでも結婚を前提に、、的な話をしたらむこうの親御さんに反対されたそうな。反対の理由は本人は知らない、と言っていたが、Y君自身は「自分が朝鮮籍だから」と思っていたようだ。後から聞いたときには「いや、あんた学生ゆうかプーやし。それが反対の理由では?」とも思ったが、わからない。
Y君は朝鮮人、外国人つまりは出自はエイリアン(異郷人)だけど、伏見にはなじんて故郷だという。僕も東北から伏見に出てきていわば「ドメスティックエイリアン」の気持ちだった。僕も伏見にはなじみ、Y君のように大学以外の友達もたくさんできた。恩人と言っていい人もいた。
僕は街に飲まれて、少し心許しながらこの冷たい街の風に歌い続けるハズだと思っていたが、そんなことはななかった。僕が僕であるために勝ち続ける必要もなかった。 伏見の街に吹く風は故郷よりも暖かく、毎日楽しかった。そしてY君の出自と毎日の暮らしぶりをみて、なんて伏見というのは多様性のある街なんだろう。なんて伏見というは包容力に富んだ街なんだろうとも思った。
30年経って、結婚記念日の食事に訪れた。当日に予約を取ることができた。住宅地のなかにひっそりあっていい。地元の人らしき先客がいた。落ち着いたいい雰囲気。途中でお父さんとお子さん二人が来たが、お子さんも大人しくてよかった。料理は当然おいしい。目の前で丁寧にステーキを焼いてくれるスタイル。このご時世でアルコール類の提供はなかったが、おいしいワインと一緒にいただきたい。接客もつかずはなれずで心地よい。もっと早く訪ればよかった。
あまり知られていないが、伏見区桃山地区は京都の三大高級住宅地の一つ。他の二つは左京区下鴨地区と北区北山地区。このステーキハウスのある大亀谷は地理的に桃山地区と連続している。高級住宅地という意味で桃山地区に含められることもある。桃山地区は道は狭いが広い敷地の家が多い。フィギアスケートの有名三姉妹のご実家も桃山のあたりのはずだ。桃山城の麓は伏見のアップタウンだ。付近の比較的所得の高い人たちが、このお店を普段使いしているのだろうな、と思った。繁華街でもない場所で30年以上もステーキハウスを続けるには、固定客が必要だろう。
お店を出ると付近はすっかり暗くなり、下鳥羽あたりの夜景が見えた。京セラの本社ビルも見える。たしか京セラの創業者の家も桃山なんちゃら町にあると聞いたことがある。やはりここは高い場所にあり文字通りアップタウンだぁ、と実感する。
オールドニュータウン向島のニトリで買い物をして、ダウンタウン大手筋の油長でお茶して、アップタウン大亀谷で食事。伏見は多様で奥深い。いい結婚記念日になった。ありがとうございました。
食事の後、この店の周辺をY君の家を探してみた。お父上の司法書士事務所がまだ営業継続していたから、この変にお屋敷があるはずだ、と思ったからだ。しかし見つからなかった。Y君のお屋敷はもっと上のほうにあったのかもしれない。...
Read moreA degustation style meal, excellently prepared and very patient service( especially considering our poor Japanese). Very good find with good quality food. Highly recommend but be aware travellers this is an expensive restaurant for the average traveller. Absolutely...
Read more落ち着いた雰囲気のお店で、1人14,000円ほどのコースを利用しました。 ステーキがメインのコースで味は可もなく不可もなく、正直この価格帯ならもっと感動のある内容を期待していました。
ただ、それ以上に残念だったのは接客の質です。 料理に関する話以外のこちらからの声がけには完全に無視され、終始一方通行なやりとり。 注文したものよりも1つ上のコースを頼みたかったのですが、当日注文できないとのことで、せめて魚料理を追加できるか相談しようとしたところ、「いやもう量それなりにあるので大丈夫です!」とこちらの話をさえぎるように断られました。丁寧さのかけらもありません。
さらに、迎えが来る時間があるため提供スピードの調整をお願いし、了承を得たはずが、実際は異常に早いペースで提供され、逆に時間が余ってしまい、結局追加で魚料理を頼む羽目に。何のための調整だったのか分かりません。
ちなみに、店内の客は私たちだけ。 それでもこの対応ということは、根本的にサービスの質に問題があるとしか思えません。 最後の見送りもなく、終始「早く帰ってほしい」という空気が伝わってきて、とても不快でした。
値段にまったく見合わない接客レベルで、正直タダでももう一度行きたいとは思えません。 あの時間帯に私たち1組しかいなかった理由が、よく分かりました。 おすすめポイントは一つもありませ...
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