ラーメンなるものは、気にして食べるものではない。と以前は考えていたものだ。そばうどんなどと同じで、カツ丼天丼親子丼のセットもの。ボリュームアップのためにあるようなものである。と、ついこの間までそのようにも考えていた。  長野市はラーメン激戦区である。 そう言われるようになって10年以上経過したであろうか。所詮はマスコミが騒ぎ立てているだけ、激戦区といっても新宿や池袋ほどではないのだろう。と鼻で笑っていたものだ。  ところが知人から様々なラーメン店に連れだされるにつれ、これはこれでなかなかなものだ、と考えるようになった。  生キャベツとの相性抜群の豚骨醤油ラーメン「よし家」。和風節系ラーメンとも言うべき存在「蕪村」。鶏白湯スープが白眉の「とり丸」など意欲的な店だらけ。じつに楽しかった。現在でも状況は変わらない。いくつかの店は代替わりしたが、意欲十分挑戦的なラーメン店はたくさんあるのだ。   「赤兎馬」 長野日本赤十字病院前にある小さな小さなラーメン店である。カーマニアであるご主人がホンダNSXをイメージして名付けたそうである。知人に連れていかれ 『とにかくスゴいから。騙されたと思って食ってみろ！』 と勧められたのがこちらの名物だ。  「赤兎馬」 名物、というかお勧めメニューは店名そのままの「赤兎馬」というラーメン。  直径30㎝はあろうかという巨大などんぶりに赤いスープがなみなみと注がれている。具はキャベツ、ニンジン、サヤエンドウ、豚こま肉その他刻みに刻まれ投入されている。あんかけ状に仕立てられたスープはどろりと粘度の高く極細麺によく絡むのだ。  このように紹介するからには、大変美味しい！……といいたいものだが、むしろ反対なのが世間の面白いところである。多くの者がかように言うであろう。  『二度と喰うモンか！』  二度と食べたくないラーメンとはいったい何なのか。いい表すのは簡単なのである。すなわち  熱くて辛くて酸っぱい  のである。  熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。 熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。 熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。 熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。    いや、ウマいマズい以前なのだ。 味もへったくれもない、単にガマンして麺たぐっているだけである。 なんとか食べ切れたのは両親から受けた 『食卓に出されたものは食べ切りなさい！』 という厳しい教育と激しい躾によって培われた"義務感"のみによるものであったと確信する。  お父さんお母さん本当にありがとう。 あなた方の三男坊は立派に育ったはよいが40にしてメタボ入り50にして糖尿入口まで来てしまった。惑うより前に主治医と専属看護師（家内だが)より大変な叱責を受ける、辛い日々を送っているのだ。情けない。   無駄話はやめよう。 そういった次第でこちらとのご縁は切って捨てられた。……筈であった。 以来、数日間はあちらこちらで 『二度と喰うモンか！あんなマズいもの！』 と言い触らし歩いたものだが、言えばいうほど 『でもそんなにマズかったかな？』 『あの日は体調も良くなかったし。お腹もそんなに空いていなかったからなァ』  などと何らの根拠性もない期待感が生まれてくる。このようなところが「赤兎馬」のスゴいところ。いや「赤兎馬」が「赤兎馬」である由縁とでも言うべきか。  …では、もう一度確認しに行ってみようや。 などと足を向けたが最後だ、もう後へ引くことはできない。  熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。 熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。 熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。 熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。  食べたが最後、紅の魔術に取り込まれている。  熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。 熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。 熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。 熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。  まるでBlack Magicに取り憑かれたあいつのように戻ってくることは出来ない。  熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。 熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。 熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。 熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。  その日から これを体感したくて、 春夏秋冬問わず汗ダクになりたくて。 狭苦しい駐車スペースもなんのその。 気づけば「赤兎馬」かきこんで悦に入る。病みつきになってしまっている。 …そんな生易しいレベルではない、まさしく地の果て至上の時。  ノンジャンル、いや、マジカルジャンルラーメン「赤兎馬」。とにかくスゴいから。騙されたと思って食ってみろ！そしてみなで唱えるべし  熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。 熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。 熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。 熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。熱くて辛くて酸っぱくて。  ここまで書いたらとてつもなく食べたくなってきた。明日の昼ご飯はここで汗ダクになるとするか。