宗峰（臨済宗の名僧：宗峰妙超）は「私の付法の諸氏の中で慧玄だけが禅の本質を掴んでいるが、彼は天生の風滇漢でどこにいるのかわからない」と答えた。この師から「風滇漢」と追われた関山慧玄こそ、妙心寺の開山であるが彼のことはよくわからない。（梅原猛著『京都発見８』188頁）

花園法皇はこの宗峰の言葉に深く尊敬して関山を探し出し、法皇の離宮のあった花園の地を与えて宗峰の名付けた「正法山妙心寺」という禅寺を建てさせようとした。一つの宗教、あるいは宗派が発展するには、教義を作ったその開祖とその組織を飛躍的に発展させた布教者が必要である。キリスト教で言えばイエス・キリストとパウロ、浄土真宗で言えば親鸞と蓮如である。同じようなことが妙心寺にも当てはまる。妙心寺は花園法皇の悲願を受けて、関山慧玄が開山したささやかな寺であった。この寺を今日のような巨大な臨済宗の宗派の本山にしたのは妙心寺第４租の日峰宗舜と、その日峰に学んだ第六租の雪江宗深に負うところ大であろう。（同190頁）

雪江は伽藍としての妙心寺を再興しただけではなかった。彼は禅僧のあり方や組織のあり方、及び寺院の経営のあり方などを細かく規定して、後の妙心寺の発展の基礎を作った。まず彼は自分の体験から遍参を重視する。・・・よい禅師は山に隠れて厳しい修行に明け暮れている。そういう優れた禅師を訪ねて、その禅師のもとで厳しい禅の修行を積み、そしてその寺を支える農民と付き合い、それによって法門を広げる。（同192頁）

そればかりではない。寺院において経営が大事であることを実感した雪江は、「米銭納下帳」の制度を実施して・・・五役が連署する厳重な会計制度を作って、山内のみならず地方末寺の経済を安定させたのである。妙心寺の算盤面と言われるのは、このような綿密な会計制度と質素倹約を旨とした妙心寺の気風を、京都の町の人たちが評したのであろうが、算盤面なくしては妙心寺の発展はあり得なかったであろう。（同193頁）

豊臣秀吉は世継ぎの鶴松の夭折にあった時、葬儀を妙心寺で行った。これは織田信長、豊臣秀吉という権力者によってあつく崇拝されていた大徳寺が、千利休事件によって秀吉に嫌われたからである。ここで妙心寺が大徳寺に代わって権力者に最も気に入られた寺となったのである。そうなると諸大名は相争って妙心寺に塔頭を作ることになる。

とのように、妙心寺は寺存続のためのノウハウを確立した臨済宗のお寺である一方、秀吉はじめとした戦国大名に愛されたがゆえに、今でもこの巨大な伽藍と多数の塔頭を擁しているのでしょう。