奥の細道　第18の段「壺の碑」 奥の細道では高さ6尺幅3尺（畳の大きさ、と言っても今の人は想像しずらいでしょうか？）とあり、芭蕉が見たのはこの碑かと思いますが、”苔を穿ちて文字幽也（石碑の苔を払って刻印がかすかに読めた）”とも書かれていますので、この石碑は芭蕉が訪れた後に建てられたものかもしれません。 ”四維国界の数理をしるす”とあり、四維（しゆゐ）は乾（北西）、坤（南西）、艮（東北）そして、巽（南東）を指し、国境の距離を記すということです。文献では 去京一千五百里 去蝦夷国界一百廿里 去常陸国界四百十二里 去下野国界二百七十四里 去靺鞨国界三千里 とあります。（靺鞨＜まつかつ＞は今の中国、ロシアの一部、高句麗の北にあった国） 読める範囲で記載は同じようです。 さらに書けば「つぼのいしぶみ」は多賀城の前栽（せんざい：前庭）の壺に書かれた文字で石碑でなかったというのが手前の考えです。つまり、芭蕉が 歌枕の「つぼのいしぶみ」と思っていたものは 実は別のものであったと推測します。 文中の手前の解釈は下記です。 山崩れ→白河の関 川流れ→阿武隈川、名取川 道あらたまり→政宗が青葉城築城に併せて街道を変更したこと 石は埋もれ土にかくれて→しのぶもぢ摺（第13の段） 木は老いて若木にかはれば→武隈の松 千歳（せんざい）の記念（きねん）→碑に記された”靺鞨”の記載 芭蕉にとって具体的な距離が書かれた石碑は、これまで自らの足でここまでたどり着いた者にしか分かることのできない感慨深いものであったのに違いありません。 例えるならばこれは競技場にいる芭蕉のみが持てる感慨であって、観客席にいる我々が計り知るのは容易いものではありません。

この歌枕の歌になんと源頼朝の歌があります。判官贔屓の芭蕉にとっては極めて意味深長です。

みちのくの　いわで忍ぶは　ゑぞしらぬ　書きつくしてよ　つぼの碑　頼朝

やがて手前の素姓も分かると思いますが、先祖が越前の国より頼義殿、義家殿の下に馳せ参じた遠い歴史の所縁の地であるこの多賀城を故あって訪れることは、朧の中に深い感慨があります。 まさに 今眼前に古人の”こころ”を閲（けみ）す。 行脚の一徳 存命の悦び 羈旅（きりょ）の労をわすれて 泪も落つるばかりなり

この文章をどうして現代語に訳せるでしょうか。