チェンマイ旧市街の北側城外にある寺院です。他に例を見ない珍しいかたちの仏塔があることで知られています。 本来の寺名は「ワット・ウェルワンナーラーム（วัดเวฬุวนาราม）」と言います。「ウェルワンナーラーム」は「竹林の寺」という意味です。仏教経典に登場する、お釈迦さま在世時代のインドの僧院「ヴェール・ヴァナ・アーラーマ」にちなんで付けられた名前かと思います。 「ワット・クータオ（วัดกู่เต้า ）」は、この寺院にある珍しい仏塔の名前からつけられた通称です。 「クー・タオ」という言葉の中にある「クー（กู่）」というのは、僧侶や国王など高貴な存在（※国王の愛馬や愛象の場合もある）の遺骨を埋葬するお墓を意味します。このことから、寺院境内にある仏塔は、偉い人の墓塔でもあることが分かります。 「タオ（เต้า ）」は「スイカ」。この仏塔は、球状の丸い基壇を5つ段々重ねしたかたちになっているのですが、この丸い基壇が「スイカ」のように見えたことから、「タオ」という言葉が入っています。 「クー・タオ」で「スイカの形をした墓塔」という意味になります。 この寺院が建てられた時期はよく分かっていません。タイ北部の史話集や寺誌などの中に、15世紀末頃に起きたセータンカマニー仏像（現在ワット・チェンマンにある水晶仏像）の盗難事件の話があるのですが、その中にこの寺院への言及があります。ティローカラート大王の時代に、アユタヤの王子が僧侶となってチェンマイにやって来て（スパイ活動のためか？）、ワット・クータオに住まい、当時ワット・チェディルワンに祀られていたセータンカマニー仏像を詐欺行為をして奪い去ったそうです。このことから、15世紀末には、この寺院が存在していたであろうことが窺い知られます。 16世紀の半ば頃に、チェンマイはミャンマーの王朝国家の属国になりました。属国支配期の初期の頃は、ミャンマーから王族の統治官（大守）が派遣されて属国支配を受けたのですが、そのミャンマー人統治官（タウングー朝バインナウン王の息子とも孫とも言われる）の遺骨が「クー・タオ」の中に埋葬されているそうです。 ちなみに、寺院の創建伝説の1つには、ミャンマー王朝の軍隊とチェンマイの兵士たちが、人命を奪うことなく戦争の決着をつけるため仏塔づくり競争をおこない、その時に「クー・タオ」塔がつくられた、という話があります。これが史実かどうかは分かりませんが、この寺院がミャンマーとの関わりが深いことを物語っています。 余談になりますが、1762年頃にミャンマーのインワから大軍がチェンマイに押し寄せています。この時、ミャンマー軍は「ワット・ウェルワン・クータオ」に本営を置きました。 1950年に撮影されたワット・クータオの写真がのこっています。とても貴重な写真ですが、これを見ると、仏塔と小さな本堂しかうつっていません。周囲は何もない空き地で草と木しかありません。この当時は、このような状況でした。 現在のワット・クータオは、ミャンマー仏教的な色彩がとても強い寺院です。例えば住僧の袈裟を見ると、ミャンマー僧のまとう赤茶色の法衣を着ており、タイ僧のような黄やオレンジ、黄土色ではありません。本堂の本尊大仏もミャンマー様式の仏像です。ミャンマー出身の僧侶もここで少なからず修行しています。これは、ミャンマー・シャン州方面からチェンマイに移住したタイ・ヤイ族の人たちが、コミュニティー寺院の1つにしたことによるようです。境内には、シャン文字によるシャン語の案内表示も見られます。（お寺の周辺にもタイ・ヤイの人が多く暮らしているようです） ちなみに、この寺院にはクルーバー・チャンタランシー（ครูบาจันทรังษี）という名の、タイ北部では有名な高僧が住職をしておられます。瞑想と仏教呪術に長けたお坊様で、霊験あらたかなお守り（プラクルアン）をつくることで知られています。興味のある方は、参拝の時に手に入れられると良いでしょう。