【人生最期の食事を求めて】未知なる郷土料理と地酒に心踊り、酔い浸る一夜。
夕刻の出雲市駅を発し、宍道湖を左手に見やりながら、私は松江駅へと向かった。 西の空には、暑い一日の終わりを告げるかのように朱が溶け、湖面はその色を映し取り、あたかも割れた玻璃の破片を無数に撒き散らしたかのように煌めいていた。 目を細めたのは、夕陽の光がまぶしかったからというよりも、むしろその光景が人知を超えた何ものかを告げていたからである。
松江駅に降り立ったのは、日もすでに傾き始めた17時30分を過ぎた頃合いであった。 新幹線の乗り入れのない地方都市の駅は、都会の喧噪とは無縁の静けさに包まれていた。 制服の学生や会社員らしき者たちの姿こそあれ、観光客の気配は希薄であった。
松江といえば、否応なく思い出されるのはラフカディオ・ハーン(1850〜1904)である。 ギリシャに生を享けたこの異邦人は、『古事記』に啓発され、1890年に日本の地を踏み、やがて日本国籍を取得して「小泉八雲」と名乗った。 彼が訳し、再話した「耳なし芳一」「雪女」「ろくろ首」といった怪談奇譚は、まさにこの地の霊気と風土とが育んだ妖しき美の結晶であろう。 山と湖とが相抱くようにして佇むこの街に、彼が魂の根を下ろしたことは、決して偶然ではあるまい。
そんな思いに導かれるまま、私は松江新大橋を渡った。 残暑の名残を帯びた風が背後から押してきたが、それもまた大橋川の流れに浄められ、どこか郷愁を孕んだ空気に変わっていた。 橋を渡ると町の貌は一変し、軒を連ねる飲食店たちが不思議な静謐を湛えている。
ふと、白き円形の提灯が目に入った。 “松江の味”“郷土料理”の文字が柔らかく浮かび上がり、誘われるようにして私はその暖簾をくぐった。 カウンターのみの小さな店内には、年配の婦人がひとり、既に杯を傾けていた。 厨房には着物姿の女性が二人、影のように現れては消える。 私は入口近くの席に腰を下ろし、まずはエビスビールを所望した。 琥珀色の液体が喉を潤し、胃の底にひたひたと沁みわたってゆく。 ここは流れに身を任せるしかあるまいと、郷土の「川京スタンダードコース」なるものを注文した。 宍道湖七珍を基軸とした品書きとある。 女将の手による手書きの文字が、一種の呪文のごとく私の心を捉えて離さぬ。
最初に運ばれてきたのは「おたすけしじみ」なる椀であった。 宍道湖のしじみを用いたこの逸品は、熱の奔流と滋味の濃密さが口中に広がり、舌に記憶として刻まれる。 早くも2本目の瓶ビールを所望せしめる誘惑に抗えなかった。
続いて、「島根半島の海のめぐみ玉手箱盛り合わせ」が登場した。 バイ貝の刺身、カメノテといった希少なる海の生き物たちが、まさに玉手箱のごとく皿に盛られ、私は「やまたのおろち」なる地酒を注文した。 カメノテの塩気を含んだ口に冷酒を注げば、まさに神話と現実が交錯する瞬間のようである。
「赤天」は、その名に反して驚くほど上品な味わいであった。 島根独自の練り物は、唐辛子の辛味を帯びつつも、どこか懐かしさを感じさせる。 淡い郷愁がそこに漂っていた。
そして、すべての皿を圧倒したのが「うなぎのタタキ」である。 大皿にたっぷりと盛られたそれは、まるで舞台に登場した主役の如き存在感であった。 脂の乗った鰻の身に青葱の香りが絡みつき、口内に奔流のような快楽を呼び起こす。 食べ進めるごとに、味覚が解き放たれていく。
しかし、日本酒は呆気なく消え去り、私は「李白」と名付けられた酒を追加で注文した。 すると、「朝どれ刺身の盛り合わせ」が運ばれてきた。 皿の上には、サザエ、カンパチ、マグロといった海の宝たちが、まるで生きているかのように躍動していた。
だが、真に息を呑むのは「すずきの奉書焼」であった。 奉書をめくると、銀色に光るすずきが姿を現した。 その身を箸で解き、口に含むと、ふくよかな肉質が舌の上で静かにほどける。 驚くべきは、その清冽な味わいで、まるで川面を渡る風のように癖がない。
気がつくと、カウンター席は客で埋まっていた。 一方、コースの終わりはまだ見えなかった。 しかし私は、不思議にも、次々に供される皿をすべて平らげていた。 もはやこれは、怪談じみた現象ではなかろうか。 私は再び酒を頼んだ。 「宍道湖のしじみ割焼酎」である。 コップの底に沈んだしじみが青みを帯び、妖しくも艶めいていた。 しじみの滋味と焼酎の気配が合わさり、身体の芯に何か温かいものが満ちていく。
最後に、「季節の野菜天ぷら」と「女将の自家製ぬか漬盛り合わせ」、そして締めの「宍道湖のしじみのおじや」が供され、一連の饗宴はついに幕を下ろした。 すべてを食べ終え、焼酎の残りを静かに飲み干した時、私は思った。 かつて小泉八雲もまた、この地の郷土料理に魂を震わせたことがあったに違いない――そう想像しながら、私は静かに店...
Read moreSo I had at this stage of my trip as a foreigner become some what exhausted with navigating izakya menus and came here mainly for the promise of an English menu. I was happy to order the set menu and spent the next three hours eating and drinking. It was wonderful, great service and a real variety of seafood and local dishes. It was nice to not be rushed through and I could really enjoy the atmosphere and food. I got there at opening and it was pretty full quite soon after. I was also very full up at the end which is very unusual in Japan. One of the most memorable dining experiences I've had here. Cash only, the set menu and a good amount of drinks will...
Read moreThe hoshoyaki, unagi tadaki, sashimi (with crab legs), and fried shrimps were all super delicious. Although we spoke limited japanese, the english menu was well translated, and the service was splendid. If you like seafood and want to try some local drinks (地酒), this is a must-go place in Matsue.
We accidentally left a pair glasses there, but it was returned to us the next morning (the chef remembered where we were staying and made a call to our hotel!) along with a pack of local delicacy.
Reservation is recommended as the place has limited bar seating (~9 people at max) and is usually packed...
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