疲れた身体を引きずって歩いていた帰り路のこと、「大盛り・特盛り無料」との文言に、吸い込まれるようにして立ち寄った。 店の戸を引くと、店主と思しき人物が明るく歓迎してくれた。 そしてまず第一印象、店内がとても綺麗だ。 油そばの店とは思えないほど、清潔感がある。 そして次に、食券機。 ラーメン屋に往々にしてある、現金オンリーのそれとは違い、クレジットカードその他の電子マネーにも対応している。 財布の中身がすっからかんな僕にとって、これは非常にありがたいことだった。 もしクレジットカードに対応していなければ、僕は無念の表情で、笑顔で迎え入れてくれた店主を置き去りに、再び戸を開け退店していただろう。 そうならずに済んだのは、この店が時代の波に追いつく姿勢を持っているからだ。 それはさておき、僕はこの店で最も価格の安い「香油そば(880円税込)」を注文した。 麺の量を尋ねる店主に僕は、少し悩むフリをしてから「特盛りで」と答える。これは僕の癖だ。 食い気味で特盛りを注文するのが恥ずかしいから。 注文を待つ間、トイレに向かう。 そしてそこでもまた、綺麗さに驚いた。 なんと美しいトイレだろうか。 ラーメン屋によくある、一刻も早く用を足して一刻も早く出たくなるトイレではなく、何時間でも居座ってしまいそうな。 僕はその聖域を汚さぬべく、ソレを一滴たりとも便器の外に溢さぬよう細心の注意を払った。 そして用を足した後、普段行く汚いラーメン屋であれば、指先だけを水で洗うフリをしてから急いでトイレを飛び出すところを、ここでは、なんなら手首までハンドソープを用いて丹念に洗った。 それくらい、心を清めてくれるトイレであった。 トイレを終え、今か今かと待ち構えていると、もう一人の店員さんが、これまた丁寧な物腰で僕に香油そばを提供してくれた。 僕は彼女から託された魂の一杯を、両手で受け取った。 そこには魂の重みが宿っていて、両手にずっしりと来た。 麺は特盛りであったが、見た目としては大盛りくらいのもので、時としてそれは有り難くもあるものだ。 空腹状態というのは盲目なもので、勢い余って特盛りを注文したのち、まだ半分程度しか食べ進めていない段階で、一気に後悔の波が押し寄せるなんてことが、往々にしてある。 そんなやんちゃな僕を宥めるような、この控えめな量の特盛りが、かえって優しさのようであるとすら思える。 カウンターの脇にある「美味しい食べ方」とのマニュアルに従って、まるで某二郎ラーメンかのような極太麺を、底から掬い上げるようにして混ぜていく。 これは油そばの流儀だろう。 底に息を潜めていたタレがほどよく全体に馴染んだところで、極太なそれを初めて口にした。 そして、僕は思った。 調和していた。 この綺麗な店内、キャッシュレス決済、綺麗なトイレ、丁寧な店員、そして、マイルドな味わい。 甘めのタレに絡んだその極太麺は、恐らく女性ウケも良いのではないかと、そう素直に思った。 そして2、3口すすったのち、マニュアルに従い、僕はラー油とお酢を油そばに回しかけた。 すると、ラー油とお酢をかけたから当たり前だなのだが、そこにほんの少しの辛み、酸味が加わる。 しかし依然としてマイルドであることには変わりがなく、僕は綺麗な店内で綺麗で優しい油そばを食べていた。 二郎ラーメンや家系ラーメンを食べる時、僕は野性に帰っている。 本能の赴くままに、目の前の野菜の山を掻き分け、目玉が飛び出るくらいのニンニクの香りでさらに脳を麻痺させ、脇目も振らずに麺を貪る。 しかしこの油そばを食べる時の僕は、紛れもなく、理性を有した、社会的動物としての人間であった。 僕は理性を保ったまま、舌で目で、耳で、店内の雰囲気を含めた調和を楽しんでいた。 二郎や家系のような店で、心が安らぐことはない。 狩りにでも行くかのような心持ちで入店し、戦いの後のような気持ちで退店する。 しかし、この店で油そばを食べている時の僕の心持ち、それは、オシャレなレストランでフォークにパスタでも巻いているかのような、そんな気持ち。 さておき、僕はまた例のマニュアルに従い、次は卓上のニンニク、そして玉ねぎを油そばにかけ、また極太麺を掻き回してそれらを全体に馴染ませた。 そして、麺を啜った次の瞬間、僕の脳裏に浮かんだのは、存在しないはずの記憶、マンモスを狩りに出かける日のこと、ジャングルの奥底で、石槍を持って獲物を待ち構える日のこと。 先ほどまでのオシャレな洋風レストラン的意識は吹き飛び、僕の理性は本能に支配されかけていた。 ニンニクが、玉ねぎが、油そばが生来より持っていた破壊力を、一気に目覚めさせたのだった。 パワーと旨みが急激に生まれたそれを、僕は夢中ですすった。 そしてそれは、ほどなくして終わりを迎えた。 特盛りの量が控えめであったから。 しかし、それは決して悪いことではなかった。 それは、美しい余韻として僕の記憶に刻まれた。 厨房から出てきて、まるで美容室であるかのように店の戸まで僕を見届けてくれる店主に、「ご馳走様でした」と告げて店を後にしたが、その感謝の一体どれほどが伝わったのかは定かではない。 しかし僕が紡ぐこの長文が、この店から感じたホスピタリティに対する紛れもない答えだろう。 僕は店を出た後、二郎や家系を食べた後の、健康面における悔恨の念を一切感じることなく、美しい余韻に浸ったまま、再び帰り路についた。 冷...
Read more今回のお店は、曙町の鎌倉街道沿いにある「淡麗豚骨 TSUCHINOTOMI」さん。
この独特なロゴマークは十二支の「己巳」(つちのとみ)の図案化ですね。
こちらのラーメンは豚の背ガラ、ゲンコツ、豚足、香味野菜をじっくり丁寧に煮出した正真正銘の淡麗豚骨スープで、メニューは大別して醤油と塩があります。
注文は食券を購入するスタイルで、現金のほか各種クレジットカード・交通系IC・QRコード決済などに対応されているのは実に心強い。
店内は清潔感があって明るく、席はカウンター×8席と、4人がけテーブルがたくさんあるので、お一人さまでも家族連れでも利用しやすいですよね。
◆淡麗豚骨味玉塩らーめん(1020円)
食券を買って手渡すと、細麺・平打ち麺・手もみ麺のいずれになさいますか?とスタッフさん。
淡麗な塩に似合うのはやはり細麺かなぁ、と細麺をチョイス。細麺なので、さして時間もかからずに着丼です。
さっそくスープから頂きました。
レンゲに一杯。むむむ。もう一杯。むむーむ。お口に含むごとに、広がる濃厚なコク!!
そして、ただの塩ではない、ミネラル分をたっぷり含んでいるであろう大地の美味しさがジワジワ伝わってくる、とっても美味しい塩の味がします。
これは・・・一口目から、全部飲み干してしまいたい珠玉のスープ!
麺は極細のストレートな麺。極細なんですが、そう簡単に伸びない麺でこだわりを感じます。
口に含んだだけで断面の形が伝わってくるような、しっかりした食感。
「シコシコ」と安直な表現だけでは表現しきれない、絶妙な歯ごたえと喉越し。
もちろんスープとの相性もよく、量もしっかり入っていて、まさに大満足の麺です。
具材の中でも抜きん出ているのはチャーシューでしょう。臭みのないオランダ産「風車豚」の肩ロースを贅沢に使用されているそうです。
大きさもしっかりあって食べ応えがあるし、じっくりと低音調理してからローストされているという事で、旨味がギュギュギュッと詰め込まれた美味しさ。
プリッとした食感も口当たりがよく、これはチャーシュー麺にしてもよかったかな、と少々後悔です。
しっかりした大きさの穂先メンマはシャクシャクと軟らかく、ジュンワリと広がる優しい味わい。
味付けが優しいので、このラーメンの繊細な旨味を邪魔しないのがポイント。
メンマひとつにとっても、よく研究されているなぁと思います。
味玉は地養卵という、栄養価の高い卵を使っているそうです。黄身はトロトロで、味わいもしっかり。
箸でプリッと切ってみると、その技術の高さがよく分かる味玉です。
ふだんは味玉はたまにしか食べませんが、この「淡麗豚骨 TSUCHINOTOMI」さんの味玉は絶対に食べるべきかなぁ、と予想したのが大当たりです。
途中からは生姜ネギソースを少々入れて、味変してみるのも楽しいですね。
味変をしなくても充分に美味しいし、生姜ネギソースでさらにサッパリさせるのも、いとをかし。
普段は健康に悪いからと麺類のスープは残すようにしているんですが、あまりの美味しさに結構飲んでしまいました。
◆◇◆後記◆◇◆
入店する時から退店する時まで、感動と満足感しかないお店。そんな稀有なラーメン屋さんが、曙町にあるのです。
曙町はアダルティな雰囲気を持つ反面、たくさんのラーメン屋さんが集まる横浜市有数のラーメン激戦区。
その曙町の街並みに、ひときわ洗練されたオシャレな輝きを発する、「淡麗豚骨 TSUCHINOTOMI」さん。
近くのスーパーや商店街でのお買い物の時にちょっと立ち寄って行くにも便利な立地です。
なにより、淡麗好きならば絶対に試して欲しい美味しさです。
横浜・曙町、「淡麗豚骨...
Read more2024.04 淡麗豚骨ラーメン(白醤油) 900円 タッチパネル券売機 クレカ、QR可 土曜日の13時過ぎに訪店。 並び無し
野毛で人気のラーメン店「己巳(つちのとみ)」の支店?暖簾分け?フランチャイズ?よくわからんけど系列店。
特徴的な店名「TSUCHINOTOMI」は前述の「己巳」から。 なんでも開店日が干支(かんし・えと)で己巳の日だったらしい。 干支は中国由来で60進法の数詞で古くから暦や時間、方角などに用いられて来た。 庚申や丑寅などは耳にした事があるだろう。
ちなみに読み方は「つちのと み」 店としては知らんけど。
話は逸れてしまったが、結論から書くと、とても美味しいラーメンだった。
注文したのは白醤油に手揉み麺の組み合わせ。 着丼と同時に柔らかい醤油の匂いが香る。 一方「淡麗豚骨」と強調する程には豚骨臭は無い。 これはスープを一口含んだ際にも感じた事で、むしろ他の素材感が優っていた。 何だろう?結構、香味が強かった。
しかし、そこに拘らなければ非常にバランスが良く、色の薄い白醤油も相まって、まさに「淡麗」
麺は細麺と手揉みを選択出来る。 手揉みの麺を出す店は、えてして揉み過ぎて縮れが強くなる傾向にあるが、こちらの店では特に気にならなかった。 小麦の主張は強く無く、やや柔らかめの茹で具合でラーメンのコンセプトにも合っていると思う。 ただ、家系などに慣れ一本調子に「カタメ」をオーダーする人には、スープの豚骨感も含め「なんか違うな」と思わせてしまうかも知れない。
具材は大きなロース肉のチャーシューとシナチク(死語)海苔一枚。 薬味で先入れ(おそらく)と後載せの青ネギ。 やはり醤油ラーメンにネギが良く合う。 チャーシューもロース故に脂が溶け出して邪魔になる事もなく美味しかった。
ともかく、淡麗系のラーメンとしてはおすすめ出来るお店だと思います。
最後に評価外だが気になった事を一つ 券売機が入ってスグの右手に有るが、外から店内の様子がわからない為、扉を開けた途端に券売機使用中のお客さんと鉢合わせになる。 操作中は、ちょうど出入口に立って操作する事になるので出る事...
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